2026.03.24
NEWS
雑誌スマイラー116号「三匹の子ぶた」



老舗の味を受け継ぐ
門前仲町の隠れ家ステーキハウス
門前仲町の袋小路で30年、本当のステーキを知る人だけが集まる理由
あなたは本物のステーキを食べたことがあるだろうか?
多くの人がYESと答えるだろう。しかし、門前仲町の裏路地、看板も目立たない袋小路の奥にある小さな店を知る人々は、きっと首を横に振るはずだ。「あそこで食べるまでは、ステーキを知っているとは言えない」と。
「オールド東京スタイル」の正体
この店に一度足を運んだ人の多くが、不思議な体験をする。家に帰ってから、無性にあの味が恋しくなるのだ。年に1回、月に1回と、気がつけば常連客になっている。
その理由は単純だ。ここでしか味わえない「本物」があるからである。
勝新太郎が毎週のように通っていたという六本木の伝説「STEAKHOUSE CHACO六本木」。その総料理長だったオーナーシェフの松丸稔さんが30年前に門前仲町で始めたこの店は、今や「知る人ぞ知る」を通り越して「知らなければ恥ずかしい」レベルの名店となった。
あなたが知らない「ハンバーグ」の世界
「生でも食べられるハンバーグ」と聞いて、あなたは想像できるだろうか?
この店のハンバーグには、赤身のエージングビーフを中心にして、そこに最高級和牛が使われている。ステーキ用のお肉は、仕入れた塊肉を店内で挽いて掃除した、最上位のヒレとサーロイン。するとステーキとして出せない部分が、塊肉のなんと40~50%になってしまう。そこでそのロス部分を贅沢にハンバーグに使用。つまり、他店では数万円のステーキ肉が、ハンバーグとして提供されているのだ。
「最初に何もつけずに食べてください」という言葉に従い、一口食べた瞬間、あなたは愕然とするだろう。これまで食べてきた「ハンバーグ」とは、まったく別の料理だったのかと。
50年前の「鉄板」が生み出す奇跡
この店には50年間使い続けられている「鉄板」がある。アルミと錫の特殊合金製で、「これがなくなったら店を畳む」とオーナーシェフが断言するほどの逸品だ。
なぜそこまでこだわるのか。答えは簡単だ。最後の一口まで、温かいまま料理を楽しめるからである。他店でよく見る「木の板」や「鋳物」ましてや「陶器の皿」では、すぐに冷めてしまう。しかし、この「鉄板」なら食事が終わるまで完璧な温度をキープする。
「ハンバーグランキングで上位の店の人が来て、『この鉄板はどこで?』と聞かれました。でも、もう作れないんです」
その職人はとうに引退し、技術は失われた。つまり、この店でしか味わえない体験がここにある。
夜は「選ばれた人」だけの空間
夜の営業は完全予約制。メニューの8割は表に出ていない。お客との会話で、その日のおすすめを決めていく。
一塊の巨大なお肉を炭火で焼いて、目の前でシェフがカットしてくれる。
「4人で10万円使っても『安いね』と言ってくれるお客様ばかりです」
これは決して高慢な発言ではない。用意されているワインを含めて、使用している食材のクオリティを考えれば、良心的な価格で提供しているのが実情だ。
実際、この店の常連客の多くは、食材の価値を知り尽くした美食家たち。彼らが「ここでしか食べられない」と口を揃えるのには、明確な理由がある。
昼間に隠された「最後の知るチャンス」
予約なしで食事が出来る昼営業のハンバーグは、まだこの店の真価を知らない人たちにとって最後のチャンスかもしれない。なぜなら、建物の老朽化により、将来的な移転を検討しているからだ。
この門前仲町の袋小路で、戦後東京の味を守り続けてきた30年間。「もう古くて限界」とシェフで店長の松丸寿久さんは漏らす。
時代の変化と向き合いながら
接待や記念日での利用が多く、リピーターがほとんどを占めるこの店は、まさに知る人ぞ知る名店だ。この店を知る前と知った後では、明らかに食に対する基準が変わる。多くの常連客がそう証言している。
「他では食べられなくなった」
「ここの味を知ってしまうと」
「やっぱり戻ってきてしまう」
こんな声を聞くたび、この店が単なる飲食店ではなく、人の人生に影響を与える特別な場所なのだと実感する。
一度足を運べば、なぜ30年もの間愛され続けてきたのかが必ず理解できるはずだ。本物の味を求める食通たちにとって、ここは間違いなく東京の宝石のような存在なのである。
特選黒毛和牛ステーキ&ワイン 3匹の子ぶた
東京都江東区富岡1-26-9
03-3630-3339
オーナーシェフ 松丸稔
店長 松丸寿久





